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2016年02月20日(土)

遺産分割協議を解除できるでしょうか

1 遺産分割協議の中で、長兄が被相続人亡父の土地・建物を全て取得する代わりに、
 他の相続人には、代償金として500万円を支払うという取決めをしたにもかかわらず、
 長兄がこれを履行しない場合、どうしたらよいでしょうか。
  遺産分割協議を取り消したいと望んでいる最近の法律相談からの事例です。

2 相談者は、「取り消し」を希望していますが、代償金500万円の支払いを受けられないの
 ですから、民法第541条に定める債務不履行に基づく「解除」の可否が問題となります。
  この点は、過去に同様な事例につき、遺産分割協議の解除(民法541条)は認められない
 とした裁判例があり(函館地裁昭和27年10月15日判決)、最高裁判所も、同様に判断して
 います(最高裁平成元年2月9日)。
  その理由は、遺産分割協議は、その性質上協議の成立とともに終了し、その後は、
 その協議において債務を負担した相続人とその債権を取得した相続人間の債権債務関係が
 残るだけと解すべきであること、このように解しなければ、民法909条本文で遺産分割は
 「相続開始の時にさかのぼってその効力を生ずる。」とされる(遡及効)にもかかわらず、
 遺産の再分割を余儀なくされ法的安定性を著しく害するから、としています。

3 確かに、上記2のような事例では、取引関係に入る可能性のある第三取得者の立場も
 考えると、裁判所の判断は妥当でしょう。また、実質的に見ても、長兄以外の相続人は、
 500万円の支払いを求めて提訴するか、遺産分割協議が家庭裁判所においてなされ
 遺産分割協議の結果が調停調書に記載されているのであれば、強制執行も可能となるので、
 経済的利益の観点からは、遺産分割協議を解除しなくとも満足を得られることになります。
  では、上記2のような代償金の支払いではなく、老母の面倒を見る、といった内容であった
 場合は、どうでしょうか。
  この場合、不動産が転売される場合のように第三取得者の登場を想定する必要はない
 ので、いわゆる「取引の安全」を害する虞はなく、したがって、解除を認めてもよさそうに
 思われます。しかしながら、だからと言って、実際に裁判所に提訴した場合に、現実に解除を
 裁判所が認めてくれるか、といえば、上記の平成元年の最高裁判決からして、その可能性は
 低いと考えざるを得ません。
  もっとも、最高裁判所も、遺産分割協議の解除ではなく、既に成立している遺産分割協議の
 全部または一部を共同相続人全員の合意により解除することは否定しません(平成2年9月
 27日判決)。 
  したがって、老母の養護を約束した長兄が約束を守らないような場合、相続人全員の
 合意で先の遺産分割協議の内容を修正する新たな協議書を作成するよりありません。

4 遺産分割協議の結果は、容易に修正がきかないものと考えて慎重を期す必要があるでしょう。