「遺留分」という言葉を聞いたことがある方は多いと思いますが、案外、思い違いをしていることもあります。少し詳しくご説明いたします。
1 「遺留分」とは何か。
遺留分とは、簡単に言えば、お亡くなりになった方(「被相続人」と言います。)が 生前に形成した財産(=「遺産」)のうち、相続人に必ず遺さなければならない一定割合の財産です。 「割合」なので、個別の銀行口座の預金額や特定の不動産でもなく、 具体的金額は計算により算出されます。
民法第1028条はこの割合について、 @ 直系尊属のみが相続人であるときは、被相続人の財産の3分の1(第1028条1号)、 A それ以外の場合は、被相続人の財産の2分の1(第1028条2号)、 と定めています。
判り難い表現なので、例を示しましょう。
@の場合というのは、独身・未婚で、子供がいないAが死亡した場合、 Aの両親(=直系尊属)がそれに当ります。
Aの場合とは、㋐配偶者のみ、㋑配偶者と子供㋒子供(=「直系卑属」といいます。)のみ、 ㋓配偶者と直系尊属、の4例が考えられます。
そして、最も一般的なAの㋑の場合を考えると、 妻(配偶者)の遺留分については、 全相続財産の1/2(第1028条2号)×1/2 (第900条1号:配偶者の相続分2分の1)=4分の1、です。 子供3人だとすると、子1人の遺留分は、 全相続財産の1/2(第1028条2号)×1/2 (第900条1号:子の相続分2分の1)×1/3 (第900条4号本文により子供3名は平等の持分を有しているから)=12分の1、となります。
2 兄弟姉妹には、遺留分がない。
誤解を受けがちなのは、兄弟姉妹には遺留分がない、という点です。第1028条本文は、 「兄弟姉妹以外の相続人は、遺留分として……(次に定める)割合に相当する額を受ける。」 としているので、遺留分権利者から兄弟姉妹は除外されることになります。
両親は既に他界している生涯独身であった男性又は女性で、不仲な兄弟姉妹が居る場合において、 何千万円という全財産を全てユニセフに寄付する、あるいは、全て母校に寄付する、 といった内容の遺言書を作成し、かつ、遺言執行者を定めた場合を考えると、 兄(姉)又は弟(妹)が「遺留分があるだろう。」と遺言執行者に迫ってもムダなのです。
恐ろしいことですが、我が国の民法上、兄弟姉妹に遺留分は認められていないので、 上記のような遺言書は、公正証書遺言はもちろん、方式に合致している限り 自筆証書遺言でも有効となります。
逆に言うと、何人かの兄弟姉妹が存在するなかで、お金持ちの生涯独身であった方が、 何人かの兄弟姉妹のうち、特に仲の良かった誰かに「全財産を相続させる。」と記述した 遺言書を作成した場合、他の兄弟姉妹は被相続人から一円も得られないことになります。
兄弟は、仲良くしないといけないという教訓です。
3 遺留分を侵害した遺言書は無効か。
例えば、20年以上前から別居している妻Xと子供A、B、Cと計4名が相続人である場合において、 被相続人である亡夫の遺産が1億2000万円だったとして、亡夫が妻Xに6000万円、 愛人Yに6000万円を遺贈する旨の公正証書遺言をしたとしましょう。
この場合、妻Xの遺留分は3000万円、 つまり相続財産1億2000万円×1/2(第1028条2号の遺留分)×1/2(第900条1号、配偶者自身の相続分) =3000万円ですから、遺留分侵害はありません。
しかし、3名の子供にとっては、各自1000万円の遺留分、 つまり1億2000万円×1/2(第1028条2号の遺留分)×1/2(第900条の1号、子の相続分)×1/3 (子3名のうちの1名分)=約1000万円があるところ、3名とも何も相続できずゼロであったわけですから、 子供A、B、Cは各自の遺留分が侵害されたことになります。
4 上記例に対する答:無効ではない、即ち有効です。
遺留分侵害の効果は、民法第1031条以下に規定するとおり「遺留分権利者 (=上記例のように遺留分を有する子 A、B、Cのような人)は、遺留分を保全するのに必要な限度で 遺贈及び贈与の減殺を請求すること(「遺留分減殺請求」と言います。)ができる。」とされるだけです。
ここに「遺贈又は、贈与の減殺(げんさい)」というのは、 要するに妻X(A、B、Cにとっては母)や愛人Yが遺言により取得した6000万円を均等に減額して 自分達の遺留分額1000万円を確保できる、ということです。 (なお、A、B、Cにとって、自分たちとは無関係の愛人Yから遺留分額全額を回収したいところでしょうが、 それは、遺言書にその旨が明記されていた場合に限られます(民法第1034条、但書))。
つまり、相続人が被相続人の遺産を全くあてにしないほど裕福な場合もあり得るところであり、 親の遺産がもらえなかったからと言って、遺留分減殺請求するか否かは、 その当人の判断に委ねたということなのです。
従って、長子Aは減殺請求したけれども、B、Cは減殺請求せず、 遺言書の内容を受容するということもあり得るのです。
5 このように遺留分を侵害する遺言書であっても、単にそれだけの理由で当該遺言が 無効になるわけではありません。
私が経験した例でも、公証人が遺言書を作成する場合において遺留分を侵害する恐れがあるとして 遺言者に事情の確認をしましたが、本人の希望どおりの遺言書を公正証書として作成したケースがありました。
法律で保証された相続分ももらえないというのは、少々さびしいものですから、 親は大切にしなければいけないという教訓です。
「遺留分」という言葉を聞いたことがある方は多いと思いますが、案外、
思い違いをしていることもあります。少し詳しくご説明いたします。
1 「遺留分」とは何か。
遺留分とは、簡単に言えば、お亡くなりになった方(「被相続人」と言います。)が
生前に形成した財産(=「遺産」)のうち、相続人に必ず遺さなければならない一定割合の財産です。
「割合」なので、個別の銀行口座の預金額や特定の不動産でもなく、
具体的金額は計算により算出されます。
民法第1028条はこの割合について、
@ 直系尊属のみが相続人であるときは、被相続人の財産の3分の1(第1028条1号)、
A それ以外の場合は、被相続人の財産の2分の1(第1028条2号)、
と定めています。
判り難い表現なので、例を示しましょう。
@の場合というのは、独身・未婚で、子供がいないAが死亡した場合、
Aの両親(=直系尊属)がそれに当ります。
Aの場合とは、㋐配偶者のみ、㋑配偶者と子供㋒子供(=「直系卑属」といいます。)のみ、
㋓配偶者と直系尊属、の4例が考えられます。
そして、最も一般的なAの㋑の場合を考えると、
妻(配偶者)の遺留分については、
全相続財産の1/2(第1028条2号)×1/2 (第900条1号:配偶者の相続分2分の1)=4分の1、です。
子供3人だとすると、子1人の遺留分は、
全相続財産の1/2(第1028条2号)×1/2 (第900条1号:子の相続分2分の1)×1/3
(第900条4号本文により子供3名は平等の持分を有しているから)=12分の1、となります。
2 兄弟姉妹には、遺留分がない。
誤解を受けがちなのは、兄弟姉妹には遺留分がない、という点です。第1028条本文は、
「兄弟姉妹以外の相続人は、遺留分として……(次に定める)割合に相当する額を受ける。」
としているので、遺留分権利者から兄弟姉妹は除外されることになります。
両親は既に他界している生涯独身であった男性又は女性で、不仲な兄弟姉妹が居る場合において、
何千万円という全財産を全てユニセフに寄付する、あるいは、全て母校に寄付する、
といった内容の遺言書を作成し、かつ、遺言執行者を定めた場合を考えると、
兄(姉)又は弟(妹)が「遺留分があるだろう。」と遺言執行者に迫ってもムダなのです。
恐ろしいことですが、我が国の民法上、兄弟姉妹に遺留分は認められていないので、
上記のような遺言書は、公正証書遺言はもちろん、方式に合致している限り
自筆証書遺言でも有効となります。
逆に言うと、何人かの兄弟姉妹が存在するなかで、お金持ちの生涯独身であった方が、
何人かの兄弟姉妹のうち、特に仲の良かった誰かに「全財産を相続させる。」と記述した
遺言書を作成した場合、他の兄弟姉妹は被相続人から一円も得られないことになります。
兄弟は、仲良くしないといけないという教訓です。
3 遺留分を侵害した遺言書は無効か。
例えば、20年以上前から別居している妻Xと子供A、B、Cと計4名が相続人である場合において、
被相続人である亡夫の遺産が1億2000万円だったとして、亡夫が妻Xに6000万円、
愛人Yに6000万円を遺贈する旨の公正証書遺言をしたとしましょう。
この場合、妻Xの遺留分は3000万円、
つまり相続財産1億2000万円×1/2(第1028条2号の遺留分)×1/2(第900条1号、配偶者自身の相続分)
=3000万円ですから、遺留分侵害はありません。
しかし、3名の子供にとっては、各自1000万円の遺留分、
つまり1億2000万円×1/2(第1028条2号の遺留分)×1/2(第900条の1号、子の相続分)×1/3
(子3名のうちの1名分)=約1000万円があるところ、3名とも何も相続できずゼロであったわけですから、
子供A、B、Cは各自の遺留分が侵害されたことになります。
4 上記例に対する答:無効ではない、即ち有効です。
遺留分侵害の効果は、民法第1031条以下に規定するとおり「遺留分権利者
(=上記例のように遺留分を有する子 A、B、Cのような人)は、遺留分を保全するのに必要な限度で
遺贈及び贈与の減殺を請求すること(「遺留分減殺請求」と言います。)ができる。」とされるだけです。
ここに「遺贈又は、贈与の減殺(げんさい)」というのは、
要するに妻X(A、B、Cにとっては母)や愛人Yが遺言により取得した6000万円を均等に減額して
自分達の遺留分額1000万円を確保できる、ということです。
(なお、A、B、Cにとって、自分たちとは無関係の愛人Yから遺留分額全額を回収したいところでしょうが、
それは、遺言書にその旨が明記されていた場合に限られます(民法第1034条、但書))。
つまり、相続人が被相続人の遺産を全くあてにしないほど裕福な場合もあり得るところであり、
親の遺産がもらえなかったからと言って、遺留分減殺請求するか否かは、
その当人の判断に委ねたということなのです。
従って、長子Aは減殺請求したけれども、B、Cは減殺請求せず、
遺言書の内容を受容するということもあり得るのです。
5 このように遺留分を侵害する遺言書であっても、単にそれだけの理由で当該遺言が
無効になるわけではありません。
私が経験した例でも、公証人が遺言書を作成する場合において遺留分を侵害する恐れがあるとして
遺言者に事情の確認をしましたが、本人の希望どおりの遺言書を公正証書として作成したケースがありました。
法律で保証された相続分ももらえないというのは、少々さびしいものですから、
親は大切にしなければいけないという教訓です。